「動く手」戦略①:運動麻痺回復ステージを知ろう

運動麻痺回復ステージ理論を知らないと運動麻痺を効率的に良くできない

以前、「動く手(機能回復)」にするためには、戦略を立てることが重要だ伝えました。

関連記事

自分のアプローチは、千切れた葉っぱになっていないだろうか? 前回の記事では、脳卒中後の運動麻痺の回復には局所変化(プシューとペナ)と脳の再組織化があると伝えました。局所変化はセラピストの手が及ぶところになく、わたしたちの役目は脳の再[…]



今回は、その戦略について詳しく説明したいと思います。

戦略とは、多くのアプローチから患者に最適なアプローチを取捨選択するためのフィルターのようなものです。
フィルターは多いほど、通り抜けたアプローチは純度が高いものであるはずです。
なので、フィルターは品質のいいものをいくつか持っておく必要があります。

私がお勧めするフィルターは3つ。



①回復ステージ理論、②FMA理論、③麻痺の帰結予測 のことです。

今回の記事は、一番上の

回復ステージ理論

について説明します。

今回の記事を読むことで…

脳回復機序に依拠した上肢機能アプローチの必要性について知ることができます

それでは、始めます↓


脳の可塑性=可能性、については別の記事でお伝えしました。
脳の再組織化の機序は3つありましたね。

  1. 神経側芽
  2. アンマスキング
  3. シナプス伝達効率の向上

この3つの要因による回復は発症から全力で起こるわけではありません。
そのことを明らかにした超有名な研究があります。


脳卒中運動麻痺回復可塑性理論とステージ理論に依拠したリハビリテーション(<特集>ニューロリハビリテーションの進歩) (jst.go.jp)

上記の図はSwayneらの論文を原寛美先生が分かりやすく図にしたものです。多くの書籍、セミナー、論文などで引用されています。

この図が

運動麻痺回復のステージ理論

です。
脳卒中発症から6カ月間、経頭蓋磁気刺激にて運動誘発電位を測定し、運動麻痺の回復メカニズムを検証した結果から導き出した理論です。このステージ理論では「動く手」になるための回復には3つのStageがあることを提唱しています。

①残存した皮質脊髄路の興奮性が高まる時期

これを超訳すると、

促通stage(発症時ピーク→3カ月で消失)

となります。残存した皮質脊髄路が興奮しやすいということは、神経側芽形成によってこれまでの経路で運動が起こせる可能性があるということです。急速に運動麻痺が改善する場合、この作用が働いているといえるでしょう。

この時期に努力性のアプローチ(過剰な筋出力を求めるもの:筋トレ、きつめの課題指向型練習)を行うと、本来であれば反応しなかった脳領域が賦活し、皮質脊髄路とは違うネットワーク(後述する皮質間ネットワークの再構築:別領域からのアンマスキング)によって遂行する可能性があります。

そのことを明らかにしたのが下の図です。

図の左側が脳卒中後の患者が麻痺手を動かそうとした際の脳の反応です。右側の健常者とは違い、多くの脳領域が反応しています。この場合、次のステージである「皮質間ネットワークによる回復」が盛んとなり、残存した皮質脊髄路による回復は十分に起こらない可能性を示唆しています。

https://www.jsmf.org/meetings/2008/may/Grefkes%20et%20al%20cort%20conn%20after%20sub%20cort%20stroke%20Ann%20Neurol%202008.pdf


これは、決してこの時期に努力性のトレーニングをしてはいけないということではなく、試行錯誤の少ない状態で正しい運動をたくさん行うことを優先する方が運動麻痺は効率的に回復する可能性がある、ということです。

脳卒中後運動麻痺のリハビリテーションにおいては、「効率的」であることはとても重要です。

なぜなら、回復stageにはそれぞれピーク(期限)があるからです。

「促通stage」がもっとも運動麻痺を改善させる時期とされていますが、残念ながら概ね3カ月で消失します。そのため、「促通stage」に最適なアプローチを選択することで、運動麻痺の回復を最大限に導くことができるといえるでしょう。

これが、戦略です。


話しが少し逸れました。

では2番目に行きます。

②皮質間ネットワークの興奮性が高まる時期

これを超訳すると、

最適化stage(発症から3カ月でピーク→6カ月で消失)

となります。

皮質間ネットワークの興奮性が高まるということは、今までとは違うシステム(経路)で運動・動作を遂行する経路が構築されるということです。これはアンマスキングによって起こる回復とも言えるでしょう。

例を挙げると、

「運動野から出力される運動路が損傷したため、補足運動野を用いて運動を起こす」

よく代償動作の獲得というネガティブな解釈をされやすいですが、それだけではありません。脳の運動路としては代償経路の構築ということになりますが、運動としては正しい動きを獲得できる可能性もあります。
ただし、あくまで迂回路のようなものなので、このstageだけで正常な動きに至るのは難しいでしょう。



では最後の3番目に行きます。

③シナプス伝達効率の向上

これを超訳すると、

強化stage(発症から少しずつ高まり、6カ月以降も続く)

となります。

シナプス伝達効率が上がるということはその前提に、シナプスが伝達するための経路が存在しているということです。それは促通stageと最適化stageにて作り出した経路のことです。その経路を広げたり、道を整備したりすることで運動効率が上がり、麻痺が回復することになります。そのためには、シナプスを何度も何度も反応させることが重要であるため、量的練習が欠かせません。

以上の3つのstageをまとめると以下の図になります。



ここまでで回復ステージ理論の要約が終わりました(ようやく半分)

そろそろねおちしそうだと思うので、今回はここまでにします。

次回は、各Stageでどんなアプロ―チを優先的に実施すべきかを考えていきます。

関連記事

促通反復療法 と CI療法 を段階的に組み合わせよう! 前回の記事では運動麻痺回復ステージ理論について超訳しました。[sitecard subtitle=関連記事 url= https://eeeeebp.net/1591/] […]